LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来への扉」 #57

  
Profile

進藤 綾子(しんどう あやこ)氏

株式会社Integrity 公認会計士

東京都出身。千葉大学法政経学部在学中、大学4年生で公認会計士試験に合格。卒業後、有限責任監査法人トーマツに入社。トータルサービス事業部(当時)にて、IPO準備会社の監査業務に携わる。2021年にESネクスト有限責任監査法人に入社、マネージャー職を経験。2024年2月からは 株式会社Integrityに所属し、スタートアップ支援、資金調達支援を担当。さらに株式会社Integrityの出資先である物語運輸株式会社にてCFOを兼務。女性公認会計士のキャリア向上に着目しコミュニティの運営にも従事。

【進藤氏の経歴】

2012年 19歳 大学入学後に受けた簿記論の授業で簿記に興味を持つ。日商簿記検定3級、2級を順調に取得。次にめざす資格として公認会計士を意識し始める。

2013年 20歳 大学2年生の後半からTACに通学。翌年12月の公認会計士 短答式試験を突破し、大学4年生の8月の論文式試験でストレート合格。監査法人の就職説明会に参加し、IPO業務に興味を持つ。

2016年 23歳 大学卒業後、有限責任監査法人トーマツに就職。上場監査、上場準備会社の監査など、幅広い業務に携わる。

2021年 28歳 ESネクスト有限責任監査法人に転職。マネージャーとして、IPOをめざす多数のクライアントを担当。

2023年 30歳 若手女性会計士のコミュニティ運営に携わる。

2024年 31歳 スタートアップ支援を行う株式会社Integrityに転職し、さらに専門性を高めている。

学生時代は資格取得を目標に
自分に合った勉強法を見つけて挑戦
経営者に寄り添い企業とともに成長する
IPOやスタートアップ支援を専門に活躍中

 将来の目標探しのために大学に通う最中、簿記の授業をきっかけに公認会計士(以下、会計士)の資格を知った進藤氏。自分のペース配分で勉学に励み、在学中に資格を取得。スタートアップやベンチャーの支援に興味を持ったことから、会計士業務の中でも、IPO(新規公開株式)準備に魅力を感じたという。大手監査法人で経験を積み、IPOに特化した法人に転職。現在では自身もスタートアップ企業に在籍し、創業間もない企業の資金調達支援に携わる。さらに、多くの起業家に寄り添い、ともに上場をめざす傍ら、女性会計士のキャリアをサポートする活動も行っている進藤氏。その熱意の理由と現在の仕事についてお話を聞かせてもらった。

「将来役立つ資格がほしい」と勢いでめざした会計士受験

 転勤族だった父の仕事柄、広島生まれながら中学から東京在住だった進藤氏。

「成績が落ちるなら部活を続けさせないという教育方針の家庭だったので、勉強は昔からがんばっていましたね。その頃は思い描く将来像はなかったのですが、やりたいことを見つけるためにもまずは様々な知識を身につけたいという思いから、高校卒業後、千葉大学の法政経学部に進みました。法律・経済・会計を幅広く学べる学部で、国家公務員や地方公務員をめざしている人が周りには多かったです。1年生のとき、簿記論の授業で単位取得のために日商簿記検定3級の試験を受けたのをきっかけに、会社の会計のしくみに興味を持ちました。もともと数学が得意だったこともあり、そのおもしろさから続けて日商簿記検定2級も取得しました。会計士という職業を知ったのはこの頃です。知識を深めるため日商簿記検定1級を取得しようか迷ったのですが、より将来に活かせそうな資格を時間があるうちに取ろうと、半ば勢いで会計士試験を受ける決意をしました」

 そこで選択したのは、自宅と大学の間にあり定期券の区間内で通えるTAC新宿校だった。

「TACに通い始めた頃はまだ大学の必修科目が多かったので、平日は大学の授業終わりに19時から2時間ほどTACの自習室に立ち寄って勉強してから帰宅していました。2年生の後半からは大学に通わなくてもいい授業を中心に選択し、TACで資格の勉強時間に充てることにしました」

勉強のためのスケジュールを確立し、同じ志の仲間とともに合格をめざす

 それから大学との両立期間中は、平日は5時間、休日は10時間の配分でTAC新宿校に通い詰める日々が続いた。

「やってみようという軽い気持ちで資格取得を決めたので、勉強をし始めてからその大変さに気がつきました。やみくもに勉強を進めるのではなく、学んだ内容をしっかり復習しないときちんと理解できません。やりきった!と思えるまで勉強するには、週に40時間は必要でした」

 目標の勉強時間を達成するために、スケジュールを管理して効率的な学習を進めた進藤氏。3年生の12月、短答式試験に見事合格。4年生の夏には論文式試験も突破した。

「真剣に取り組むためにサークル活動やアルバイトなどは一切せず、外の世界と断絶した環境に身を置いていましたね。論文式試験前は大学には必要最低限しか行かず、朝の8時から夜9時までTACにいました。大学には同じ目標を持つ友人はいなかったのですが、TACにいた他大学や社会人の勉強仲間が大きな支えでした。私が自習室にいないと『この日、来てなかったでしょう?』と言われたり(笑)。みんなまじめに資格取得に取り組んでいるからこそ、お互いを気にかけたり励まし合ったりしていました」

Big4の一角「トーマツ」に新卒入社

 試験を終えて、会計士の実務を知るために監査法人の就職説明会に参加した進藤氏。会計士の様々な業務内容を聞く中で、特に興味を引かれたのがIPO準備会社の監査の仕事だった。

「通常の会計監査は、どちらかといえば批判的な視点から財務諸表全体をチェックします。一方、IPO準備会社の監査業務では、企業の方と並走し、力を合わせて上場をめざします。企業をともに支えたい、勢いのあるスタートアップやベンチャー企業の支援に関わってみたいという気持ちが強く、IPO準備会社の実績が多い監査法人を選びました」

 卒業後はBig4の一角である有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)に入社。希望するIPO部門に配属され、常時5社ほどの業務を幅広く担当した。

「担当する業務の8割程度は決算書や財務諸表のチェックなどの監査業務、2~3割が非監査業務という配分でした。IPO準備会社を担当すると、上場には最短でも2年、ほとんどはそれ以上の期間を要することから、ボリュームが重めで、必然的に長いおつき合いになることが多いです。業務としては、上場検討前の準備から、基準に沿った会計処理の整備指導、財務諸表の監査、開示書類の監査など、多岐にわたります。また企業業務・財務を適正化するために社内体制を整えたり、内部統制を構築したりする必要があります。ある上場直前の会社にスポットで入ったときには、短期間で膨大な量の開示資料チェックを担当しました。クライアントである企業の経理担当者にとっても初めての作業のため、現場は混迷を極めましたが、力を合わせて上場までたどり着いたときには大きな達成感がありました」

 進藤氏はトーマツでの約5年半の経験から、もっとIPOに関わりたいという思いが強まり、 IPOに特化したスタートアップ、ESネクスト有限責任監査法人(以下、ESネクスト)に転職を決意。マネージャーとして、IPOをめざす多数のクライアントに向き合う日々が始まった。

専門知識を身につけ活躍の幅を広げる。キャリアを磨き、前進する日々

 「トーマツ時代の経験により、会計監査や内部統制のあるべき指標に対する基礎のインプットはできていましたが、ESネクストで様々な業界の会社を多数担当したことで、IPOで特に気にかけるべき共通のポイントを把握できるようになりましたね。どのクライアントも限られた人員リソースの中で上場をめざしているので、理想と現実の差をいかに埋めるか、どこに落としどころをもっていくかの対応には経験値が問われます。主査として監査チームの窓口になり、そのクライアントのリソースをふまえ、どのように実務に落とし込むのかなどは、とても勉強になりました。また決算報告会でクライアントの社長や経理、監査役への報告や説明も多数経験しました」

 3年間の経験を積み、より自分がやりたい仕事のイメージが見えてきた進藤氏。さらに活動の幅を広げるために転職し、2024年2月からは株式会社Integrityに所属している。現在の業務は、融資の事業計画書や投資家に向けたピッチ資料の作成、公的な補助金申請のための事業計画書作成サポートなど、資金調達の面での支援がメインだ。これまでよりも、さらに企業の内側からスタートアップを支えている。

「2度目の転職を考えた際に、実は独立も視野に入れていました。しかし、監査法人での経験だけでなく事業会社で必要となるスキルをもっと学びたいと思い、現在に至ります。クライアントとともに、何もないところから会社としての『あるべき姿』を定義していく作業はとても新鮮で、おもしろいですね。会計監査以外でも今までの知識やスキルが活かせる点は、会計士という資格の幅広さと強さを感じます。スタートアップは伸びしろが大きく、活気があるのが魅力。今後もIPOやスタートアップ支援に注力していきたいです」

女性会計士のコミュニティを通し、自分らしいキャリアを模索する

 進藤氏はトーマツ出身の友人と、2023年から女性会計士のコミュニティを運営中だ。ランチやディナーでの気軽な交流会で、若手から様々なキャリアを持つベテラン会計士までざっくばらんに交流する機会を設けている。

「女性会計士の方とお話をすると、資格を活かして仕事を続けていきたいという人がほとんどです。しかし、会社に所属していると同業の同性の方に出会うチャンスはそれほど多くありません。結婚や出産など、ライフスタイルの変化に対応した働き方や新たな目標を考えるとき、ロールモデルとなる多彩な働き方を知る機会がもっとあったらいいのにと思ったのです。例えば、産休・育休を経て家庭を優先するために、社外監査役として活躍するという選択もあります。私自身も将来像に悩んだとき、何人もの女性会計士に会ってお話をする中で、思考の幅が広がりました。共働きがマジョリティにシフトする中で、女性会計士が悩みやキャリアパスをほかの人と共有でき、人に会うことで世界が広がる、そういった場を提供しサポートしていきたいですね」

 最後に、資格取得をめざす方へのアドバイスをうかがった。

「振り返ってみると、大学生で時間の融通が利くうちに、将来への投資として勉強に励んだことは大正解でした。会計士という資格があることで経験できる業務の幅やその後の選択肢は間違いなく広がっていて、本当に恵まれていると痛感しています。会計士は難易度が高い資格ですが、そのぶん社会に出たときに信頼感を得やすく、年上の方や初対面の方であってもスムーズに話が進みます。合格するまでは努力が必要ですが、それ以上に将来得られるものが大きいことを実感しています。もしも悩んでいるなら、『今が始めどき』です!ぜひ挑戦してみてください」

[『TACNEWS』 資格で開いた「未来への扉」|2024年4月 ]