特集 夫婦で挑んだ開業への道

   

左から

■木口 美涼(きぐち みすず)さん
木口社労士オフィス代表 社会保険労務士
行政書士試験合格(補助者登録) 薬剤師

星薬科大学卒業、薬剤師試験に合格し薬剤師として9年間病院や薬局に勤務。体調を崩し休職したのを機に行政書士の勉強を始める。2018年、木口謙太郎氏と結婚、行政書士木口法務事務所開設に伴い補助業務に就く。2020年、行政書士資格及び社労士資格を取得、宅建士試験に合格。2021年、木口社労士オフィス開業・後見業務を開始。社労士業務のほか行政書士補助業務を担当。


■木口 謙太郎(きぐち けんたろう)さん
行政書士木口法務事務所代表 行政書士

桜美林大学経営政策学部卒業後、都内の金融機関で10年間勤務。2018年、行政書士資格を取得し、同年10月開業。埼玉県行政書士会埼北支部、行田商工会議所青年部、行田青年会議所、行田法人会、二桜商和会等団体に所属し地域に密着した事務所経営を行う。農地転用許可申請を得意とし、「田んぼや畑に関する相談」に幅広く対応する。


  安定した会社に就職しても、専門度の高い職種に就いても、仕事を続けにくい状況に陥ってしまうことがある。木口謙太郎氏・美涼氏ご夫妻は、行政書士・社会保険労務士という資格を取得することで、それまでとはまったく別の世界へとキャリアチェンジ、独立開業を成功させた。「お互いの得意分野は正反対」と笑うふたりは、互いにパートナーをサポートしつつ、農地の多い地域ならではのニーズに応える事務所をめざしている。そんな木口夫妻に、行政書士、社会保険労務士という資格の有効性や開業の進め方、今後についてうかがった。

定年まで勤めるはずの職場で受けたハラスメント

──それぞれ国家資格を取得され、キャリアチェンジをして一緒に開業されている木口謙太郎さんと美涼さん。学生時代はどのようなキャリアプランをお持ちだったのか、教えて下さい。

木口(謙) 私は当初、自分が会社員になるイメージはあまり持っていなく、いつか独立できたらと考えていました。そのため大学2年のときに初めて行政書士試験に挑戦したのですが、そのときは試験があまりにも難しくて「これは合格できない」と勉強を諦めてしまいました。でもせっかくなら何か他の資格を取ろうと思い調べていたときに、宅地建物取引士(以下、宅建士)から勉強を始めて最終的に司法試験に合格したという方の著書を読んで感銘を受け、これをきっかけに宅建士の資格を取りました。

──謙太郎さんは宅建士以外にもFP(ファイナンシャルプランナー)2級もお持ちですね。

木口(謙) はい。当時流行っていた株式投資に興味を持ち、まずは何となくよさそうなものをと、株を買ってみたのです。するとライブドアショックが起こり、その株が暴落して、アルバイトで貯めたお金を失くしてしまいました。これはいけない、きちんとした知識を持たなくては駄目だと思い、FP2級を取得したのです。結果、その後の就職活動では資格をアピールして都内金融機関に入社できましたから、資格の有用性を実感しましたね。

──金融機関ではどのような仕事を担当しましたか。

木口(謙) 最初は支店で窓口業務、営業、融資係を経験しました。その後、本部へ異動になり業務統括部を1年、システム部を3年、その後の4年は本部の融資部で勤務しました。現場にいた頃は夜遅くまで仕事をしていましたが、本部に異動してからはほぼ定時上がりの生活になったので、業務に役立つ資格の勉強をして現場の支援ができるようになりたいと考えました。それが、学生時代にも一度チャレンジしていた行政書士です。当時私は創業融資の担当だったのですが、創業時には、例えば飲食店であれば飲食業許可や許認可が必要です。行政書士は許認可の専門家ですから、資格を取ることで創業融資に関する知識が補えて、融資の専門性も増すのではないかと考えました。

──このときは、学生時代に考えていたような独立を見据えての資格受験ではなく、勤務先の担当業務に活かすための勉強だったのですね。

木口(謙) その通りです。その当時は定年まで勤め上げようと考えていたので、定年退職したら行政書士事務所をやろうかな、くらいは考えていましたが、まずは自分の仕事に役立つ知識を得ることが主目的でした。受験勉強をしていた頃は、平日は朝4時に起きて会社の最寄り駅まで行き、出社時間までカフェで勉強。週末は朝7時位から自宅近くのカフェで勉強、途中でジムに行き、そのあとまた別のカフェで勉強するというスケジュールでした。最初は市販テキストを使って勉強しましたが、あと一歩というところで合格点に届かず、この勉強方法を続けていてもダメだと感じたので、通信講座での学習に切り替えました。

──その頃、職場でハラスメントに遭ったとうかがいました。

木口(謙) 入社4年目から10年目の7年間は、直属の上司とそりが合わなかったのです。私があまり仕事で成果を出せないときには理不尽な責め方をされましたし、仕事に役立てようと行政書士の勉強を始めたことも否定されました。「やっても無駄」「合格なんかできるわけがない」と聞こえるように言われて、最終的には会社へ行けないほどにまで追い詰められましたね。

同じ資格をめざす仲間との出会い

──勉強することを否定されるのはつらいですね。通信講座での勉強では、勉強仲間もいなかったのでしょうか。

木口(謙) それが、行政書士試験の勉強をしているときに、資格や受験とはまったく無関係の、バーベキューを楽しむ会でたまたま妻と知り合い、同じ資格をめざしていることがきっかけで親しくなりました。

木口(美) 私はそれまで薬剤師をしていたのですが、ちょうどその頃、体調を崩して休職していました。せっかくなので何か勉強しようと思い、行政書士の受験勉強を始めていたのです。たまに息抜きもしたいと思って参加した会で夫と出会い、同じ行政書士の勉強をしているという話になって…。

木口(謙) 「僕も行政書士の受験勉強をしている」という話から意気投合しましたね。

木口(美) 資格とはまったく関係のないところで、同じ行政書士をめざしている人と出会うなんて、そんな偶然はめったにないですよね(笑)。

──美涼さんは薬剤師という専門職にあって、なぜ行政書士をめざしたのでしょうか。

木口(美) 士業の友人がいて、その人の話を聞くうちに行政書士という資格に興味を持ったのです。ただ、資格を活用して何か具体的に仕事をしようというイメージは何も持っていなくて、あくまで知識・教養という意味での興味でした。その頃休職はしていましたが、それまでずっと薬剤師として病院や薬局で勤務してきたので、この先も薬剤師を続けるつもりでしたね。

── そんな中、2018年1月に、謙太郎さんがひと足先に行政書士資格を取得しました。

木口(美) 受験会場は違いますが、私も同じ年に試験を受けて、あと2点足りずに落ちてしまいました。「あと1問正解できていれば合格できたのに」と、とても悔しかったです。

木口(謙) 私はというと、合格してうれしかったのは1日か2日でしたね。勤めていた会社では国家資格に合格すると金一封が貰える制度があったので、合格したことを上司に報告したら、「お前は金がほしくて資格を取ったのか!」と怒鳴られました。なぜこんなことを言われなくてはいけないのか、こんなに怒鳴られるなら合格しなければよかったと思いましたが、それでも異動があるかもしれないという話もあったし、勤め続ける気持ちでいたのです。でも段々と追い詰められて、3月頃には2週間くらい食事ができない状態で、ガリガリに痩せてしまいました。

木口(美) その頃の彼は、今にも死にそうだし、医師からも会社を休むよう言われているのに休む気配が全然ありませんでした。どう見ても限界だから「退職届を一緒に書こう」と言ったのですが、何か行動を起こせる状態ではなかったようです。

木口(謙) 行政書士の資格を取得して、いざとなれば会社をやめて事務所を開けばいいと思うと少し気持ちは楽になったのですが、やめるなんて言ったら上司に何を言われるかわからない。それが怖くて退職届を書けずにいました。でもある日突然、会社の役員に呼び出されました。彼女が会社へ電話して上司のハラスメントを訴えたのです。これを機に、やめる踏ん切りがつきました。同時に「この人と結婚するしかない」とも思いましたね。ちなみに、退職日に会社に挨拶しに行ったらその上司に睨まれました。

会社をやめ、無職同士で結婚、開業

──美涼さんの行動力が、キャリアの転機となったのですね。

木口(謙) そうですね。4月から2ヵ月の休職期間に入り、退職したのは6月です。その間に妻の両親から会いたいと言われたのですが、これは結構大変でした。「会社をやめて、結婚してふたりで開業します」と無茶なことを言わなくてはならないわけですから。でも実際会いに行くと、妻のお母さんが「万が一開業がうまくいかなくても、美涼は薬剤師の資格があるのだから美涼が働けばいい」と言ってくれたのです。自分の両親にも彼女がいることと会社をやめて結婚することを伝えたのですが、「30歳を過ぎたのだから自分で責任を取ればいい」と言われました。正直私は「無職の人間同士が結婚していきなり開業しようとしているのに、どうして誰も止めないのだろう?」という気持ちだったのですが、そこまで言ってもらえるのなら、妻に不憫な思いをさせないようにがんばるしかない、と覚悟を決めました。

木口(美) 両親に話したとき、父は心配したのですが母が「美涼が働いて養えばいいじゃない」と言うと納得しましたから、「手に職」という意味で、資格は強いなと思いました。残念ながら行政書士は、まだ薬剤師ほどの世間的な認知度はないように感じますが、こうして今ふたりでしっかり食べていけるような良い資格なので、もっと知名度が上がってくれたらと思いますね。

──おふたりは美涼さんの地元である行田市で開業されましたが、開業資金はどのように用意されたのでしょうか。

木口(謙) 貯金がなかったので、在職中に会社で積み立てていたお金を崩して運転資金に回しました。ただ、貯金がなくてよかった面もありますね。資金が少ないために取れる戦法が限られていて、その中でどのような工夫をするか、目標を絞って活動することができたからです。

木口(美) この事務所兼自宅は、私がローンを組んで買った家です。自宅で開業したので家賃はかかりませんが、事務所の備品と主人の生活家具を一気に揃えなくてはいけなかったのが大変でした。電話とファクスの回線を入れて、ビジネスユースに耐えられるパソコンを買い、業務上必要なA3サイズの印刷やファクスの受信ができるプリンターも必要でした。業務の質に関わる物以外はできるだけ安く、リサイクルショップを回ったり、デスクやイスは商工会議所で知り合った方からいただいたりもしました。事務所の看板も、私が木彫りで手作りした物です。

──手先も器用なのですね。

木口(謙) 私は作図などが苦手なのですが、妻は美術系の作業が得意です。測量図を描くCADも、私が行政書士会の研修でもらってきたデータで一緒に勉強したら、ほどなく使いこなすようになったのですごいと思いますね。その一方で、どちらかというと妻は営業が苦手です。私は金融機関にいた頃は飛び込み営業もやっていましたから、いろいろな所へ顔を出して仕事を取って来ます。このようにお互いの得手不得手が正反対なので、今は「事務所の中の仕事は妻で、外の仕事は私」といった役割分担になっています。

行田商工会議所青年部への加入が転機に

──美涼さんの地元という、謙太郎さんにとってはまったく縁故のない土地での開業ですが、どのように顧客開拓したのでしょうか。

木口(謙) 開業準備中にいろいろ調べた結果、まずは地元の商工会議所に参加することにしました。商工会議所に青年部という若い人の集まりがあることを聞き、そこへ入ろうと考えたのです。実は青年部には誰かの紹介がないと入れないしくみだったのですが、私は何も知らなくて、開業届を出した足でそのまま商工会議所に行きました。いきなり「青年部に入りたいです」と言うのだから、応対してくれた方もこの人は一体何者なんだろうと思ったと思います(笑)。結婚を機に横浜から行田へ来たのだと話すと、「どうして横浜からこんなところに来たのですか?」と驚かれましたね。でも10月開業というのは絶好のタイミングでした。11月に行田市で一番大きい『商工祭・忍城時代まつり』があるのです。甲冑を着て行うお祭りなのですが、行田名物のフライを商工会議所青年部で屋台を出して売るということで、そこに誘ってもらえました。そして手伝いに行った先で、たまたま隣で一緒に販売していたのが土地家屋調査士の先生だったのです。この土地家屋調査士さんから最初にいただいたのが農地転用許可申請の仕事で、これを機に、紹介先から次々に仕事がくるようになり、今では農地転用(農地や休耕地を、他の目的で使用する土地に変更すること)が事務所の主力業務となりました。

──「こんなところ」と言われた場所には、「農地転用」の需要があったのですね。

木口(謙) そうですね。田んぼや畑に関わる許可は、市区町村等で申請方法が異なりますし、同じ手続きでも役所によって必要な書類や提出枚数が違ったりします。それに実際は農地転用許可申請以外の手続きも連動して必要になるのが実情です。「ここは自然公園法に触れる地域ですが、許可は取っていますか?」とか「土地改良区法の範囲なので担当の承諾を得てください」とか、詳しくない方が手続きするにはなかなか大変な申請量だと思いますので、専門家が求められる分野だと感じています。幸いなことに私は昔から農地法が得意科目でした。大学時代に宅建士受験で農地法を学んだのですが、農地法は「許可を取らなければ絶対無効」という、ある種わかりやすい法律なので好きでした。宅建士資格を取った頃は、まさか自分が十数年後に農地法を専門にするとは思ってもいませんでしたが、農地転用許可申請はやりがいがあります。役所側が難しい相手の場合でも、こちらも専門知識を積み上げて申請許可が取れたときには達成感がありますね。

──開業してどれくらいで事業が軌道に乗りましたか。

木口(謙) 何をもって軌道に乗ったとするかは人それぞれだと思いますが、収入が会社員時代を超えたという基準で言えば、開業して半年後くらいです。農地転用の仕事を主力にして事務所の方向性も決まりましたし、これからは地域のニーズに応えて提供できる業務サービスを増やしていきたいですね。

1年間に3つの国家資格を取得

──美涼さんは開業前に薬局をやめ、謙太郎さんの事務所で補助業務をしながら資格受験に挑戦。そして2020年には行政書士、社会保険労務士(以下、社労士)、宅建士の試験に合格されていますね。

木口(美) 勤めていた薬局は自宅からも近く働きやすかったので、ずっと勤めるつもりでしたが、結局復職できるまでには体調が戻らなくて退職したのです。
 「補助業務をしながら1年に3つの国家試験に合格」というとすごいことのように聞こえるかもしれませんが、私の場合はある程度ベースができていたことが大きいですね。開業当初はそれほど忙しくなく、事務所も自宅と兼用でしたから移動時間もないため勉強時間は作りやすかったし、行政書士試験に関しては以前あと2点で合格というラインまで来ていたので、アドバンテージはあったと思います。それに、主人が年明け早々に行政書士試験に合格した2018年にも、宅建士と行政書士をダブル受験しようと勉強していたのです。主人が宅建士は行政書士よりも簡単だというので挑戦したのですが、思ったより難しくて、初回の宅建士試験はあと1点足りずに不合格。しかも行政書士試験の前には溶連菌感染症にかかってしまって勉強ができず、結局両方不合格でした。
 そしてちょうどその頃、主人が「助成金申請をやりたい」と言い出しました。それには社労士資格が必要だから取ってみてはどうかと言われて、社労士をめざすことにしたのです。

木口(謙) 社労士受験に際しては、試験科目が10種類もあって学習ペースがつかみにくいということで、「通学して勉強したい」と言われましたね。当時はまだ開業したてで金銭的余裕がなかったので、正直受講料の出費は痛いなと思いましたが、何しろ私は年金関係が苦手なので社労士試験に合格するのはまず無理です。でも妻が資格を取ってくれれば業務的に大きなプラスになるので、通学してもらうことにしました。ところが妻が行政書士試験にも挑戦すると言ったのです。「そんなにあれもこれもと広げたら全部上手くいかなくなるだろう」と話したのですが、最終的には行政書士、社労士、宅建士と3つの試験全部に合格したものですから、「失礼しました!」とこちらが謝る結果になりましたね(笑)。

──どのような勉強をしたのでしょうか。

木口(美) 補助業務は仕事があるときだけ事務所に行くような感じでしたので、勉強時間は取りやすかったです。ただ体調がよくないことが多かったので、それが大変でしたね。横になりながらでも学習できるように講義の動画や音声を視聴したり、スマートフォンで問題演習したりと、座って勉強ができないときもできるだけ勉強時間を取るようにしました。

──社労士受験ではTACのコースを取られたそうですね。

木口(美) 2019年の行政書士試験の直前にTAC大宮校の体験講義に参加したところ、とてもよかったのですぐに申し込みました。その後、年が明けてから行政書士の合格が決まり、社労士の学習に集中し始めたところ、新型コロナウイルスの影響で一時的に校舎が閉鎖になりました。通学している間はペース配分も良かったのですが、通わないと学習ペースが落ちてしまって苦労しましたね。そして8月の社労士試験が終わったらすぐ切り替えて10月の宅建士試験に向けて勉強。とにかくその場その場の目標に全力で集中することを続けた結果、合格できた感じです。

目標はこの街で雇用を創ること

──美涼さんが行政書士・社労士資格を取得して、変化はありましたか。

木口(謙) ありましたね。行政書士をしていると様々な相談が来るのですが、お客様の中には誰に相談すれば自分の困りごとが解決できるのかわからないという方もいらっしゃいます。社労士関係の相談も結構入って来るのですが、妻が社労士ですと、そうした相談も断らずに受けられるので、とてもプラスになっていると思います。今やろうとしているのは助成金ですね。まだ開業したての頃に助成金申請を頼まれたことがあって、知り合いの税理士の先生に相談したところ、この地域では助成金ができる先生がほとんどいないと言われたのがヒントになっています。

木口(美) 主人が当時調べたら助成金を取り扱っている社労士の方は見つかりませんでした。今はいるかもしれませんが、少なくともその税理士の方が知っている範囲ではいなかったし、社労士オフィスを開設したときも、名刺を持って挨拶に回ると「助成金を頼む人がいなかったから助かるよ」といったお声をいただきました。

木口(謙) 私の参加している商工会議所青年部のメンバーには保険業の方が多いのですが、保険代理店の方は社労士と組んで仕事をすることが多いようで、社労士オフィス開業の挨拶に行ったら「先月来てくれれば、ちょうど助成金の仕事があったのに」と言われましたね。この地域に社労士業務に対する需要はあると思います。妻が社労士と行政書士の両方を持っているので、もはや私はいなくてもいいんじゃないかという感じですが(笑)、私が先に行政書士として人脈を作っていたことで、その後の仕事も広がりやすかったのではないかなと思います。

木口(美) 主人の人柄は、うちの事務所の特徴にもなっていると思います。あちこちでおもしろい話をして来てくれるので、それで興味を持ってくださった方が「木口さんに頼んでみようか」と仕事の話を持ってきてくださいます。今後は地元密着でいろいろやっていきたいですね。

──結婚から二人三脚で事務所を経営されてきたおふたりですが、仕事も家庭もずっと一緒だと、意見が違って揉めるようなことはないですか。

木口(謙) しょっちゅう揉めていますよ(笑)。自分がこうしたいと考えていることと妻のやりたいことが違うと、仕事の方針がずれるので、その辺は合わせていく必要があります。

木口(美) 意見のすり合わせはしっかりするようにしていますね。また、基本的に行政書士業務に関しては、私も考えは言いますが最終決定は主人に任せるようにしています。ただ、たまにどうしても意見が合わなくて「じゃあ私はその仕事は手伝わないから自分でやってね」ということはあります(笑)。

木口(謙) 自分ひとりだとつい突っ走ってしまいますが、パートナーと意見をぶつけ合うことでバランスが取れたり、考え直したりすることができるのは良いことだと思っています。

木口(美) 夫婦ふたりで事務所を構えていることのメリットは他にもあります。士業は仕事柄、個人情報を多く扱いますし守秘義務もありますので、仕事上の悩みがあってもなかなか人に相談することができません。でも、夫婦で同じ事務所で仕事をしていると、お互いの状況がわかりますので、フォローしたり、相談に乗ってもらったりと、精神的に支え合える点が良いと思います。

──これからの展望を教えてください。

木口(謙) 一番大きな目標としては、正社員としてスタッフを雇うことです。行田市に住んでいる人たちは、地域に雇用がないために、多くが市外へ働きに行ってしまいます。でも金融機関に勤めていた頃、地方創生で何が大事かというと、事業で利益を上げ、雇用があり人が定住することで地域が繁栄することだと教わりました。だから正社員を雇用できる事務所にしたいと思っています。

── おふたりは行政書士事務所と社労士事務所の看板を掲げておられますが、実は他にもいろいろな資格をお持ちだそうですね。

木口(美) はい。私はFP3級やメンタルヘルス・マネジメント®検定試験3級、また2019年に測量士補も取っています。

木口(謙) 測量士補を取ってもらったのは本当に助かっています。河川の許可申請の仕事があったときに測量の道具を買って、川からどれ位の凹凸があるか測ってもらいました。

木口(美) 面積など難しい測量は無理ですが、高さ低さ程度の簡単な測量ならできますね。あとは日商簿記検定3級も持っています。主人が資格をたくさん持っているのに刺激されて、簡単な資格をいくつか取っていた時期があるのです。

木口(謙) 私は資格を60位持っています。日商簿記検定2級や貸金業務取扱主任者といった金融機関関係の資格などです。仕事に関連した資格を取ると、業務が理解しやすくなりますので、職域に沿った資格を取ることは大事だと思います。資格受験の何がいいかというと、合格するためには苦手な部分も含めて体系的に勉強しなければいけないところです。結果的にバランスの良い知識を得ることができると思いますね。金融機関時代に上司に資格を取れと言われるのが癪だったので、言われる前から片っ端に資格を取った結果、取得した資格が増えてしまいました(笑)。

── 資格がおふたりの人生に与えた影響は大きかったですか。

木口(美) そうですね。結婚に反対されなかったのも私が薬剤師の資格を持っていたからでしたし、主人の行政書士資格も、ハラスメントを受けたときの精神的な支えになっていました。退職後の道筋がすぐに決まったのも、資格があったからこそですので、資格は私たちふたりの人生と切っても切り離せないものだと思っています。

木口(謙) 資格を取ると、それまでとはまったく違う人たちとの出会いがあり、視野が広がります。特に学生の方は社会人よりも勉強に専念できる時間を作りやすいはずですから、ぜひ時間を上手く使って挑戦してほしいと思います。そして、資格は「原石」です。持っている原石にしっかりと手をかけて磨き上げることで、さらに価値のあるものにすることができると思います。ぜひ、挑戦してみてください。

── 本日はありがとうございました。

[『TACNEWS』 2022年2月号|特集]