特集 金融業界のグローバル・パスポート~CFA®の魅力~
第2部:特別インタビュー
グローバルな投資や資産運用、金融業務全般をカバーする、オールラウンドな知識が身につくのがCFA®です

塩谷 和彦氏
セイリュウ・アセット・マネジメント株式会社
マネージングディレクター
CFA協会認定証券アナリスト 日本証券アナリスト協会検定会員
塩谷 和彦(しおたに かずひこ)
1987年、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現:シティグループ証券会社)入社。2005年、ファイナンシャル・セキュリティ・アシュアランス・インク(現:アシュアド・ギャランティ)アジア代表に就任。2010年よりトレードウェブ・ヨーロッパ証券の在日本代表を務める。2016年、セイリュウ・アセット・マネジメント株式会社入社、現在に至る。
CFA®(Chartered Financial Analyst)は「米国の証券アナリスト資格」で、世界中の数あるファイナンス資格の中でも、圧倒的なステータスを誇っている。今、このCFA®が日本で注目を集めている。2017年のCFA®試験では日本での受験者の合格者数が前年比80%増で過去最高を記録した。高い注目を集めるCFA®とはどのような資格なのか。資格の学校TAC・CFA®講座の講師で、実務家としても第一線で活躍されている塩谷和彦先生に、金融・投資分野におけるCFA®資格のメリットとその活かし方、MBAやUSCPA(米国公認会計士)との相違点、金融業界の最前線についてうかがった。
セルサイドからバイサイドへ
──塩谷先生が外資系投資銀行に進まれた理由をお聞かせください。
塩谷 大学院で国際経済学の研究室に所属していた私は、卒業後は経済学やファイナンスの知識を実業界で活かしていきたいと考えていました。外資系投資銀行で働く先輩がリクルーティングに来て、金融の最先端分野の話をしてくれたのがきっかけで、外資系投資銀行のソロモン・ブラザーズに入社しました。証券会社は専門性をとても追求する業種で、入社後は市場部門と引受部門などに分かれて常に勉強。私も債券部門で1年間みっちり債券に関する知識をたたき込まれました。専門外の株式やポートフォリオマネジメントについては本を読んだり、自分で投資したり独学で学びながら、東京とニューヨークで外国債券と円債の営業、円建て商品のプロダクトマネージャーとして18年間勤めました。
──その中で、どのようなタイミングでCFA®(CFA協会認定証券アナリスト)の資格を取ろうと思われたのですか。
塩谷 金融業界は大きく分けてセルサイド(証券会社など)とバイサイド(運用会社など)があります。自分はそれまで証券会社というセルサイドしかやっていなかったので、バイサイドも経験してみたいと考え、米国の金融保証を専門とする保険会社に転職し、クレジット投資を5年間、経験しました。
そこでポートフォリオマネジメントの現場に触れたのをきっかけに、自分のそれまでの金融知識が「狭く深い」スペシャリスト的な知識であることに気づき、あらためて金融について体系的に学ぶ必要性を感じました。また、そのためにはアナリストの資格を取ることが最も効率的なのではないかと考えました。
証券会社が激務だったのに対して、新しい職場では時間のコントロールをしやすかったので、余っている時間でまずCMA®(日本の証券アナリスト資格)とUSCPA(米国公認会計士)を取得し、その後はこの2つの資格の知識をベースに約18ヵ月でCFA®を取得しました。結果、通算3年数ヵ月で3つの資格を取得しています。ただし、この速さで取得できたのはやはり実務経験があったからだと思います。
実務直結のCFA®試験
──転職がきっかけとなったのですね。CFA®とはどのような資格なのですか。
塩谷 グローバルな金融機関にはチャーターホルダー(CFA®保有者)が数多く在籍していて、資産運用部門やアナリスト部門では主要な資格となっています。
試験は、金融についての基本的な知識を学ぶLevel1から徐々に難易度が上がり最終的にLevel3までの3段階に分かれていて、すべて英語で実施されます。試験に合格後、投資分析関連の職務経験等を経て初めて資格が得られます(過去の職務経験も可)。「ちょっと経済や株に興味がある」程度の気軽な気持ちでチャレンジするというよりは、ファイナンスの仕組みを幅広く探求したいという方にとって、取りがいのある資格と言えます。
──先生がお持ちのCMA®(日本の証券アナリスト資格)との違いはどのような点にありますか。
塩谷 CMA®とCFA®は多くの分野が重複しているので、CMA®保持者にとってCFA®は既存の知識を活用できるアドバンテージがあります。試験の最も大きな違いは、CMA®は日本語で問われるのに対し、CFA®は英語という点です。また、CMA®は2次レベルまでですが、CFA®は3次まであります。CFA®は市場や産業界の変化に伴って試験内容を見直しているので、カリキュラムの改定が頻繁で非常にup to dateなものになっています。2019年の試験からはフィンテックが出題範囲に加わります。
──CFA®はどの程度の英語力が必要とされるのでしょうか。
塩谷 英語力には個人差があるので一概には言えませんが、受験者の半数は、日本人を含む英語を母国語としない人たちなので、そうした人たちが不利にならないような構成で、カリキュラムや問題も素直な「ファイナンス英語」で書かれています。そして問題はLevel1が短文形式の択一、Level2は長文形式の択一、Level3は記述式と長文択一の組み合わせで英語力が総合的に試されます。逆に言いますと、チャーターホルダーであるということは、一定レベルのファイナンス英語ができるという証明にもなります。
教材としては、まずCFA協会で出しているテキストと、それをまとめたシュウェイザーという英語のテキスト、さらにTACではそれを日本語でまとめたサブテキストがあります。CFA協会のテキストはかなりのボリュームがあり、実際の試験では出題されないレベルまで細かく書かれているので、これだけに取り組んでいると時間切れになる可能性が高くなります。その内容をぎゅっと圧縮したのがシュウェイザーで、これを完全に読み込めば試験対策としては非常に効率的です。このシュウェイザーをさらにまとめて日本語にしたのがTACのサブテキストです。
シュウェイザーの英語は素直なので、読んでいると徐々に英語力も上がってきます。テキストは実際の試験より少しだけ難しい内容になっているので、受講生の中には「本試験が易しく感じられた」とおっしゃる方もいます。つまり「シュウェイザーを読んで理解できる英語力があれば大丈夫」というのがボーダーラインで、シュウェイザーを完璧に読み込むことが合格への近道です。言い換えると、本腰を入れて金融業界で勝負するなら、その程度の英語力は必須だということにもなります。
取得で広がるグローバルネットワーク
──CFA®取得のメリットについて教えてください。
塩谷 1つ目は、投資や資産運用、金融業務全般をカバーするオールラウンドな知識が身につくことです。例えば、現在私のいる会社が行っているオルタナティブ投資は、ヘッジファンドや不動産など幅広い商品を扱いますが、ファンドの内容などについて下調べをする際に「テキストに載っていたな」と思い出すことが度々あります。ですからいまだにテキストを捨てることができませんね(笑)。また、CFA®の特色のひとつに「倫理規範」の遵守があり、様々な場面で倫理上どう判断するか、どのように扱うかを学びます。コンプライアンスは運用会社のリスク管理の根幹です。現在私はコンプライアンス部長を務めていますが、それはCFA®を取得したことにより、コンプライアンスに対する考え方が大きく影響を受けたからです。
2つ目は、チャーターホルダーであるメリットとして、同じ価値観を共有するチャーターホルダー同士のネットワークが構築できるということです。CFA協会では勉強会やセミナー、継続学習プログラムが充実していて、多くの参加メンバーと知り合い、良い刺激を受けることができます。
3つ目は、CFA®が世界的に高い評価を得ていることです。投資運用業界でビジネスを円滑に行う上で、CFA®は大変役に立ちます。初めてお会いする方と名刺交換する際でも、名刺にCFA®が入っていることで、ある一定レベル以上の知識とスキルを持つ投資のプロフェッショナルと認識してもらえ、まわりくどい説明を省略し、すぐに本題に入れるケースもあります。海外の金融機関でキーポジションにいる方はチャーターホルダーが多く、相手がCFA®の場合は自然と仲間意識が生まれ、スムーズにビジネスを進めるのに役に立ちます。
──CFA®をめざす方はどのような職業の方が多いですか。
塩谷 海外ではCFA®が投資運用の専門家のライセンスという捉え方をされているので、日本でも運用会社(アセットマネジメント会社)の方がCFA®取得をめざすケースが多いですが、証券会社、銀行、保険会社など、金融業界全般で、幅広い職業の方がチャーターホルダーとなっています。証券会社ではリサーチ部門、つまり調査をされる方が中心という印象です。また、TACの受講生には学生の方もいます。金融業界をめざすのであれば、自分の真剣さをアピールするには効果的で、例えば在学中にLevel1を取っているだけでも、就職活動では評価されると思います。
※Level1の受験資格は、4年制大学卒業以上、もしくは受験申込時に卒業見込みであること。

キャリア形成に攻守で効果的なCFA®
──CFA®とMBAとの違いはどこにありますか。
塩谷 日本は人事異動が頻繁に行われますが、アメリカではほぼ異動がありません。今いるポジションから抜け出すには一度退社し、MBAを取得して再就職するのが王道ですが、キャリアを中断するコスト、さらに大学に通うコストと、かなりの負担がかかります(米国などの海外MBAの場合)。また、どの大学のMBAかで格付けされてしまうこともあります。
一方、CFA®は金額も十数万円と、MBAとは比べ物にならないぐらい安価です。働きながら取得できますし、業種によっては会社からの取得サポートも受けられます。国家資格ではないため、合格後に士業として生きていけるわけではありませんが、逆に言えば、弁護士や公認会計士のように退職してまで受験に専念するような資格ではなく、働きながら取る資格です。そういう意味では時間のマネジメント能力や、どれだけ負荷をかけられる人なのかを試されている試験でもあると言えます。どんな資格でもそれを取得した瞬間から知識は古くなり始めますが、「チャーターホルダーである」ということは、今現在「知識がある」というよりも、むしろ「負荷をこなせる」、「真摯に努力する」人である、という姿勢の表れなのではないかと思うことがあります。
──CFA®取得はキャリア形成でどのように使えますか。
塩谷 資格には、「攻め」の資格と「守り」の資格があると思います。「攻め」とは転職活動などで更に上の会社やポジションに就職できること。「守り」とはリストラにあった際にすぐに次の仕事が見つけられることなどです。
私がCFA®は守りの資格でもあると実感したのは、セルサイドからバイサイドに転職したあとのことでした。日本初の金融保証専門の外国損害保険会社を設立し、免許を取得して約3,000億円のクレジット・ポートフォリオを構築しました。しかし、「これからだ」という時にリーマン・ショックが起き、最終的にはその支店を閉鎖することになりました。結果的にその後は全く違う債券の電子取引を行うネット証券の代表に転職しましたが、このとき、資格があることでやりやすかったと思います。
金融業界、特に外資系においては、キャリアが進むにつれ自分の専門性が進んでいくのですが、その過程で商品の陳腐化が起きたり、市場や会社自体がなくなってしまう局面が出てきたりします。私の場合はリーマン・ショックでそれが生じました。その時にクッションとなるのが守りの資格です。変化の激しい金融業界では、攻めだけでなく守りの資格としてもCFA®は活用できると言えます。
──現在USCPAを勉強中の方がCFA®にも挑戦するのはメリットがありますか。
塩谷 CFA®ではLevel1とLevel2で会計がありますので、会計に関しては共通している部分がありますが、全体的には内容がかなり違う試験とも言えます。最も大きな違いを感じるのは、USCPAは会社のバランスシートや損益計算書をボトムアップで作りあげる仕事であるのに対して、CFA®はその出来上がった決算数字を使って運用を行うトップダウンの仕事だということです。このため、USCPAの試験ではビジネス法のような法律系の科目や監査という科目がありますが、CFA®にはありません。逆にCFA®ではポートフォリオマネジメント、統計学や経済学などの科目があります。チャーターホルダーになるには、金融での実務経験が要求されますが、USCPAの場合は州にもよりますが、監査経験が要求されますので、その点でも違います。
私がUSCPAを取得したのは、日本におけるアメリカ企業の代表になり、米国の役員会に出席するときに「U.S.GAAP(米国会計基準)についての知識が不足している」と感じたのがきっかけでしたが、結果的にはCFA®を取る際に会計科目が非常に楽になったと思います。USCPAは年4回試験が受けられますし、以前はアメリカの会場まで行かなければならなかった試験も、今では日本で受けられるようになっていますので、決してやさしくはない資格ですが、ロジスティクス的には挑戦しやすいと思います。
取得するなら「今」
──これからCFA®取得をめざす方へメッセージをお願いします。
塩谷 よく「金融を効率的に学ぶコツはありますか?」と聞かれます。私の答えは「金融の勉強をするなら、どんなに少額でもいいから投資を実際にやってみること」です。実際に投資をして、失敗も少ししてみると、格段に学びのスピードが速くなります。同時に、自分が本当に金融業界で仕事をしたいのかどうかも見極められます。
また、これからの時代はAI運用などが中心になると言われていますが、その中でも様々なチャンスが生まれると思います。CFA®取得を通して基本を身につけた上で、皆と同じことをするのではなく、違うことをやってみる。皆が真似をしてきたら、また別のことに挑戦する。時代は常に変化しているので、どこかに必ずチャンスが生じます。
CFA®の資格はキャリアを継続しながら比較的安価に取得できます。取得すればグローバルなフィールドで高い評価が得られますから、世界で活躍したいと思う方にとっては目標に値する資格です。国家資格ではありませんが、CFA®は世界中のどこに行っても認知されています。高齢化が進む日本において、資産運用業界で活躍できる人材が増えれば、日本にとっても大きなプラスになるはずです。チャーターホルダーが全世界に15万人いると言われる中で、日本での資格保持者は約1,300人と、金融人口の割に非常に少ないという現状があります。取るなら希少価値の高い今のほうが良いと思います。皆さん自身のため、そして日本の金融業界のためにも、ひとりでも多くのチャーターホルダーが誕生することを期待しています。
[TACNEWS 2018年11月号|特集]