コラム 医療事務の就職に資格はいらないって本当?

医療事務の資格や学習は役に立たないの?

女性にとっての魅力がたくさんあるといわれる“医療事務”というお仕事。国家資格のない医療事務には、民間の資格が数多くあります。さらに、「そもそも資格がなくても就職できるし、仕事に支障もない」といった意見も聞こえてきます。医療事務の資格は本当に、就職にも仕事にも役立たないのでしょうか・・・?

医療事務の就職に資格はいらないって本当?

未経験・資格なしでも医療事務のお仕事ができる?

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新米医療事務ハナコ 「せんぱーい、ちょっと落ち込んでるんで愚痴聞いてください・・・」

ベテラン医療事務カオルコ先輩 「(面倒くさそうに)えっ・・・別にいいけど私明日も出勤だからお酒は付き合わないよ!」

ハナコ 「お酒抜きで大丈夫なんでちょっと聞いてください・・・」

カオルコ先輩 「あれ?ホントに落ち込んでるのね。どうしたー?なにがあった?」

ハナコ 「私の高校時代の後輩が医療事務の仕事したいって言うから相談に乗ってあげてたんですけど、その子資格も取らないうちから採用されちゃったんですよ!」

カオルコ先輩 「ふむふむ、まあ、若者にはそんなこともあるかもしれないねー」

ハナコ 「何だか急に、自分がせっせと時間つくってお金も出して勉強して、やっとの思いで合格したのがバカらしく思えてしまって・・・」

カオルコ先輩 「弱気なところは相変わらずだねハナちゃんは。確かに、医療事務の現場経験もない、資格もない、学習もしていないっていう人が採用されるチャンスが全くないわけじゃないよ。医療事務は別に国家資格じゃないし、私たちの仕事は資格が必須なものではないから」

ハナコ 「やっぱり・・・」

カオルコ先輩 「でも、ハナちゃんががんばって取得した資格の知識やスキルは、実はハナちゃんが自覚していない部分でちゃんと、仕事をしている自分を助けてくれてるはず」

ハナコ 「??・・・どういうことですか?」

カオルコ先輩 「うーん、じゃあ、具体的に例を挙げて考えてみようか」

医療事務の就職に資格はいらない? ケース(1) 受付業務でのひとコマ

高齢の患者が、あなたの勤務するクリニックを初診で受診しています。初めて訪れた場所なので勝手がわからず、聴力も衰えている方のようです。受付スタッフとして、どのような点を心がけて患者に対応するべきでしょうか?

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カオルコ先輩 「ハナちゃんは、医療事務として仕事をする前に接客の仕事をしたことって、ある?」

ハナコ 「接客なら、高校生のときにコンビニでアルバイトをしてたことがありますよ!」

カオルコ先輩 「コンビニって、本当にいろんな人がお客さんとしてやってくるよね。そんなところで働いて、なおかつ現役でクリニック受付もこなしてるハナちゃんなら、こんなときどういう対応が必要か、わかるよね?」

ハナコ 「そ、そう詰め寄られると一瞬自信を失いそうになりますが・・・ええと、まず初めて来た方なので院内のことにも不案内ですから、待合スペースや診察室をご案内するときにも丁寧に。それから聴力が衰えている患者さんのようなので、ゆっくり・はっきりしゃべって相手の反応をよく見ることが大事だと思います」

カオルコ先輩 「ふむふむ、上出来だね。発話はゆっくり、大きな声がいいと思うけど、噛んで含めるような口調や怒鳴りちらすような発話は失礼だから、気をつけないとね」

ハナコ 「そうですね! 敬意をもって接しないといけないですね」

カオルコ先輩 「・・・とこんな具合に、いわゆる接客の部分について言えば、医療機関の接客も一般のサービス業の接客も、それほど大きな違いはないと思うわけ。医療機関にとっての“お客さま”である“患者さま”は、病気のせいで身体も心も弱った状態で受診に訪れるから、より思いやりが必要だってのはあるけど、違いはそのくらいじゃないかな」

ハナコ 「・・・つまり、資格がなくても医療機関の接客はできるってことですか?」

カオルコ先輩 「うーん、じゃあ、こんな場合はどうだろう?」

医療事務の就職に資格はいらない? ケース(2) 医療保険制度に関する問い合わせ

受付業務の最中に、患者から問合せを受けました。
「会計のときに支払う金額が高額になってしまうとき、一定の上限金額まで支払えば済むような制度があるって聞いたんだけど」

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ハナコ 「勉強したからおぼろげに覚えてます・・・高額療養費制度ってやつ」

カオルコ先輩 「そうそう。うちみたいなクリニックではそれほど高額な診療はなかなか行われないけど、病院に入院したりすると費用が高額になることがある。こんなとき、患者負担が大きくなりすぎないように配慮した制度が高額療養費制度だね」

ハナコ 「このケースで患者さんが訊いているのは、あらかじめ窓口で支払う金額に上限を設ける制度だから、限度額適用認定証の提示が必要になりますね」

カオルコ先輩 「難しい名前の制度をよく覚えてたね、えらいえらい。こんなふうに、医療機関は医療保険制度にのっとってサービスを行うわけだから、受付スタッフは医療保険制度についての知識をひととおり備えておく必要があるわけ」

ハナコ 「患者さんが持ってくる保険証もいろんな見た目のものがあるし、場合によっては追加で証明書を提示してもらわなきゃいけないこともありますよね」

カオルコ先輩 「そうだね。上のケースも、例えば『限度額適用認定証というものを提出していただくと、月の自己負担金額に上限が設けられることになります』っていう説明をしたとすると、次に『その認定証を利用したいんだけど、どういう手続をすればいいですか?』って訊かれるよね。そういったことも、ひととおり説明できなきゃいけない」

ハナコ 「確かに、ここまでくると、とにかく現場に飛び込んでから1つ1つ覚えるより、下準備として資格の勉強をして、知識を備えておいたほうがよさそうですね!」

医療事務の就職に資格はいらない? ケース(3) 一部負担金についての質問

会計を済ませたあと、患者から問合せを受けました。
「いつもと同じ診察しかしてもらってないのに、前回よりお支払いが多いみたいなんだけど、どうしてですか?」

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カオルコ先輩 「これはハナちゃんもわかると思うけど、よくあるお問い合わせだよね」

ハナコ 「私たちは診療報酬についての知識があるけど、普通の患者さんにとって医療機関のお会計って、最後に『●●円です』って言われるまでわからないですもんねー」

カオルコ先輩 「そうなんだよね。仕組みがわからないまま、でも言われたまま支払わざるを得ないから、金額が変動していると理由を知りたいのは当然の話。こんなとき、ハナちゃんはどう対応してるかな?」

ハナコ 「そうですねー、金額が変動する理由はいろいろ考えられるけど、例えばコンピュータで前回と今回の明細を呼び出して比べたり、前回と今回の診療内容を比べたりすると、費用が変わっている原因は調べられますね」

カオルコ先輩 「そのとおり。たぶん、ここまでの対応は、コンピュータの操作がわかっていれば、医療事務の資格のない人にもできるんじゃないかな」

ハナコ 「でも、例えば『今回の診療では特定疾患療養管理料という費用が加わっているので、料金が高くなっています』って説明をすると、その特定疾患療養管理料っていうのは何なのか、どうして前回はなくて今回支払わなきゃいけないのか、っていうのも説明しないといけないですよね」

カオルコ先輩 「そうそう。診療報酬は厚生労働省が定めたものだから、それに沿ってしっかりと支払ってもらわなきゃいけないものだけど、患者さんに不明な点があったときに、私たちはきちんと説明をして納得してもらわなきゃいけない」

ハナコ 「うーん、やっぱり、自信をもってそういう説明をするには、学習や資格が下地にないと難しそうですね・・・」


──ハナコが例に挙げている特定疾患療養管理料というのは、ある種の病気を日常的に本人が管理していくための指導を医師が患者に行うことで生じる費用です。この費用は、月に2回まで算定できるというルールがあるため、同じ診察でも料金が高い日と安い日があるのです。例えばこのような、複雑な診療報酬の算定ルールの大半は一般の患者には把握されていませんので、疑問点を問い合わせられたらきちんと説明するのも医療事務スタッフの大事な仕事です。

医療事務の就職に資格はいらない? ケース(4) 採用面接にて・・・

就業希望の医療機関での採用面接でのやり取り。
「どこか、他の医療機関で事務スタッフを務めた経験はありますか?」
「いえ、それはないんですけど、こちらで採用していただけましたら一生懸命仕事を覚えて皆さんのお役に立てるようにがんばりたいと思っています!」
「経験はないということですね。じゃあ、医療事務についてのお勉強はしていますか?」
「いえ、特に勉強したり資格を取得したりしてはいないのですが、採用されましたら一つ一つ現場で覚えていきたいと思います!」

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カオルコ先輩 「わたしね、思うんだけど、ハナちゃんの後輩が経験もなくて、資格もなくてお勉強もしていなくて、でも採用されたのって、とても運がよかったんだと思うの」

ハナコ 「はぁ、運がよかった・・・。運がよければ、わたしも勉強せずに医療事務スタッフになれた・・・?」

カオルコ先輩 「このケースで、面接に臨んでる人は『採用されたら一生懸命』とか、『採用されたら一つ一つ現場で覚えていく』って発言してるよね」

ハナコ 「そうですね」

カオルコ先輩 「考えてみてほしいんだけど、採用面接っていうのは、『ここで働きたい』っていう人が臨むもの。で、そういう人たちはきっとみんな、『採用されたら一生懸命』とか、『採用されたら一つ一つ現場で覚えていく』って思ってるはず」

ハナコ 「みんなやる気をがんばってアピールしますから」

カオルコ先輩 「つまり、その仕事をがんばってやります! っていう気持ちはみんなだいたい同じで比べられない。AさんとBさん、2人の志望者がいて、2人ともがんばりますって言ったとしたら、採用面接の評価では差がつけられないと思うの」

ハナコ 「意気込みを語るだけでは、やる気を証明することにならないからですね」

カオルコ先輩 「そのやる気を客観的な形で証明できるのが、学習経験であり、資格だと思うの」

ハナコ 「なるほどー。お勉強しててよかった!」

カオルコ先輩 「学習して資格を取得したっていうことは、それだけの時間や労力を費やしたっていうこと。このことは、医療事務っていう仕事に就きたいっていう気持ちの確かさを相手に客観的に伝えられるよね」

ハナコ 「さっき、運がよかったって言ったのはどういうことですか?」

カオルコ先輩 「たまたま、ある求人に応募して採用面接に臨んだのが1人きりだったら、未経験・無資格・未学習でも採用されることがあるかもしれない。たまたま、面接の会話がはずんで、人柄が気に入られたのかもしれない。たまたま、その医療機関の採用担当者が、未経験でも無資格でも未学習でも関係ないっていう考えかもしれない・・・。例えば、そういうことだね」

ハナコ 「確かに、そういう場合にすんなり決まってしまうことはあるかもしれないですね」

カオルコ先輩 「インターネットで医療機関の求人はたくさん見つけられるけど、条件が魅力的なところほど応募したい人は多いはず。その中で他の応募者と採用枠を争うとしたら、少しでも客観的な強みを身につけておきたいでしょ?」

ハナコ 「資格はそのための武器になるわけですね!」

カオルコ先輩 「そういうことだね。あと、運よく採用されたとしても、慣れない現場で仕事を覚えながら、医療事務の専門知識も並行して身につけていくのはきっと大変。就職後の自分のためにも、しっかり準備をしておいたほうがいいと思うなー」

医療事務の資格があってよかった! まとめ

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カオルコ先輩 「自分で仕事をこなしてると気づかないかもしれないけど、けっこういろんな場面で、『かつてがんばって学習したこと』が役立ってることがわかったでしょ?」

ハナコ 「はい、勉強してなかったら困ることだらけだったと思います・・・。」

カオルコ先輩 「そもそも、『医療事務に資格はいらない』とか、『資格を取っても役に立たない』とか言われるのって、『資格さえ取れば必ず就職できるわけではない』ってことと混同してるんだと思うんだよね。もちろん採用する側としては、即戦力になる経験者が欲しいこともあるし、きっちり勉強して資格を持っていても、コミュニケーション力とか人柄とかその医療機関との相性とかも含めて総合的に判断するわけだから、資格はあっても・・・ってことは起こりうる。」

ハナコ 「そうですね、資格は万能じゃないけど、でも何より、私が学習にかけた時間とお金が無駄じゃなかったって思えてよかったです!」

カオルコ先輩 「よっぽどそれが悔しかったんだね・・・。っていうかうちのクリニック、未経験OKにしてるけど、勉強してない人採らないから。ゼロから教えるの大変だし。」

ハナコ 「ぎゃっ(汗) 先輩に出会えたのも頑張って資格取ったおかげだったんですね!」


──医療事務の資格は国家資格という「公共性」がないので、その必要性に疑問をもたれることがよくあります。でも、採用に臨むとき、現場に立ってから患者と接するとき、たとえ直接的にレセプトに関する仕事でなくても、医療事務の体系的な知識は自分の助けになるはずです。採用面接に自信を持って臨んだり、就業後の仕事をゆとりをもってこなすためにも、準備をしっかりしておくことは決して無駄にはならないでしょう。

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