全国社会保険労務士会連合会 会長
金田 修 氏
金田 修(かねだ おさむ)
1944年生まれ、長野県出身。法政大学経済学部卒。民間会社勤務後、1972年金田労務管理事務所開設。2003年社会保険労務士法人東京労務に組織改編し、現在に至る。公職歴:2003年東京都労政事業評価委員会委員、2007年総務省年金記録検証委員会委員、2009年厚生労働省年金記録回復委員会委員。団体歴:1997年全国社会保険労務士会連合会理事、1999年常任理事、2003年副会長を経て、2009年会長に就任。1993年・1998年全国社会保険労務士会連合会会長表彰、2001年社会保険庁長官表彰、2004年厚生労働大臣表彰、2007年藍綬褒章受賞。 |
特定社労士1万人体制に
――昨今、マスコミ報道でも社会保険労務士(以下、社労士)の名前を見ることが多くなり、社労士試験の受験者数も増加していますね。
金田 2009年度の社労士試験の受験申込者数は6万7745人(受験者数は約5万3000人)と過去最高でしたが、2010年度は7万人を突破するであろうと言われています。年金記録問題への一連の対応の中で、国民の皆様が「社労士イコール年金の専門家」という認識を持っていただいたのも1つの要因と考えられますが、いずれにしろ社労士制度が42年目を迎えて、きちんと国民の間に定着してきている結果であろうと総括しています。しかし、この結果に甘んじることなく、50年目に向けては更なる新しい施策を考えていかないと、将来の制度発展はないというぐらいの認識を持っています。
――その新しい施策も含めまして、社労士の業務内容からお聞かせください。
金田 社労士の業務は大きく分けると、労働社会保険諸法令の手続業務と相談指導業務の2つになります。2009年度のデータによりますと、手続業務と相談指導業務の両方をマッチングしている会員が60%強、手続のみを行っている会員が30%弱、相談業務のみが10%強となっています。この数字から、会員の約9割が手続を含めた社労士業務を行っているということが判ります。つまり、労働社会保険諸法令の手続業務というのは、社労士にとって非常に大きな割合を占めているということです。この業務を今後どのように展開していくかと考え、社労士会としては他の士業に先駆けて、7年ほど前に電子認証局の設置を行いました。2008年度における全政府の手続業務約5億5000万件のうち、厚生労働省の手続業務は約1億8000万件と大きな割合を占めるため、将来の電子政府の実現に向けて社労士がきちんと対応していくことが大事だということで、まずは電子認証局加入1万2000人体制という目標を掲げまして、現在1万人近い社労士会員が認証局に加入するという実績が出てきています。今後も社労士会は率先してe-Gov(電子政府の総合窓口)電子申請システムの利用促進に努め、それによって手続業務の領域の確保と定着をしていく所存です。一方、社会保険労務士法の第6次・第7次法改正により、個別労働関係紛争の裁判外紛争解決手続(ADR)の代理、都道府県労働局が行うあっせんの手続代理という、もう1つの手続業務のくくりができました。連合会の政策といたしましては、このADRの代理人である特定社会保険労務士の有資格者を1万人体制にするという目標を立て進めていますが、おそらく2010年度中には目標を達成できると思います。また、全国に「社労士会労働紛争解決センター」を開設する目標を掲げていまして、現在は23都道府県会に設置されていますが、これも2010年度中には30ヵ所を越える見通しです。
――「あっせん代理権」の獲得に続いて、簡易裁判所における訴訟代理権、および労働審判代理権の獲得を目指しているそうですが、どのような背景があるのでしょうか。
金田 社労士会の紛争解決センターから労働者側の申告があり、使用者側に出席を依頼しても、相手が出なければそこで手続は終了です。しかし、そこで終わっては本来の解決にならないわけです。そのために、個別労働紛争にかかる簡易裁判所の訴訟代理権、あるいは労働審判の代理権を与えていただければ、紛争を解決するまで社労士が関与できることになります。これが達成できれば、将来の社労士にとってというよりも、国民にとって完成された士業になるのではないかと考えています。
従来の年金相談センターとの違い
――相談指導業務に関してはいかがでしょうか。
金田 最近の大きな枠組みとして、まず年金相談があります。ご承知のように2007年5月に年金記録問題が発生しまして、国民のみなさんは大変不安と心配を抱えており、その不安解消あるいは国民の権利擁護という立場で、連合会としては当時の社保庁(社会保険事務所)での相談や、各地方公共団体の相談窓口で相談活動に協力してきたわけですが、連合会独自の政策としては、全国約2万ヵ所の社会保険労務士事務所で年金記録問題に関する相談を無料で受けるのと同時に、各都道府県会の年金相談センターを充実強化するという政策を打ちました。2010年1月には社会保険庁が解体され、日本年金機構が設立されましたが、当連合会では同機構が全国27都道府県・51ヵ所に開設している年金相談センターの運営を受託することとなり、新たに「街角の年金相談センター」として対面相談の充実をキーワードに、社労士による年金相談の機会をさらに拡充しています。そこで、これまでの年金相談センターとどういう違いが出せるのかがポイントになってくると思います。まずは顧客目線の対応、具体的には相談員の言葉遣いとか、あるいは待ち時間を利用して積極的に声をかけるなり、そのような姿勢を示すことによって、前提不満も解消され、きちんとした年金相談が行えるのではないかということで、今進めているわけです。「街角の年金相談センター」は現在27都道府県にとどまっていますが、これを全国47都道府県に増やすように要望しています。また、相談するのに往復で数時間かかるなど非常に不便なところに住んでおられる方の地域が多くあることから、今後は移動式の相談センターというのが必要ではないかと考えています。
――一方、労務管理の相談指導の部分は非常に幅が広いと思いますが、この点についてはどのような方向性を付けられていますか。
金田 今、連合会の政策として打ち出しているのは「経営労務監査」という技法の確立で、そのために経営労務監査推進委員会を立ち上げて検討を進めていますが、まずは経営労務監査の中でも労働条件審査に特化して進めていこうと考えています。図書館や運動場などといった施設の管理業務などで、地方公共団体に入札をする事業者、あるいは契約の更新を迎えている事業者に対して、労務管理の分野を審査していこうという流れが全国の地方公共団体で広がっているわけですが、社労士会が考えている労働条件審査は、整備状況とともに、過去に遡ってその規程や規則がきちんと運用されているかどうかまで審査することで、実態にあった審査をしようというものです。まずはニーズが出ている地方公共団体に向かって社労士会から発信していき、労務管理の専門家である社労士が行うべき業務との認識を世間に広めていくことが第一歩ではないかと思っています。
3階建ての研修で育む“新時代の社労士”
――これからの社労士に求められる資質や能力はどのようなものでしょうか。
金田 それは、連合会の研修制度のご説明で代えさせていただきたいと思います。新年度の事業計画の中に、3階建て研修構想を立ち上げました。1階の部分は、社労士登録を見据えての研修です。現在、登録する際の要件として2年間の実務経験というのがあるわけですが、企業の総務に2年いたというだけで実務経験を充たすのは問題ではないかという議論があります。また、それに代わるものとして事務指定講習があり、これは半年の通信教育と4日間の座学の研修を受講するということになっています。半年の通信教育の中で約200に及ぶ手続書類の書き方を学ぶため、この事務指定講習を受けられた方は大体の手続きは分かって登録をしてきているわけですが、企業での2年間の実務経験という部分で登録をしてきている方というのは、おそらく手続業務の一部分をやったのみで登録してきている方が多いですね。そのあたりのアンバランスをどう直していくか、また一方で事務指定講習についても現在のレベルでいいのかという議論もあります。今問題提起した2つの部分を併せて考えますと、登録前に一定のレベルまで実務能力を高めるための修習制度を考える必要があるのではないかということです。
2階の部分は、全国の社労士会で約3万5000人の会員が「労務管理の専門家」を名乗るわけですから、その方々について主に労務管理の専門分野の研修をどうしていくかということへの対応です。各県会においても色々な研修をやっていただいているのですが、研修に来られないという人のためにe?ラーニング研修の導入を考え、会員が24時間いつでもどこでも必要なときに研修が受けられるシステム作りに取り掛かっています。
3階の部分は、実務の裏付けとなる理論です。この理論をきちんと学習できる形作りをどうしていくかということで、大学院との契約を行い、連合会あるいは都道府県会の推薦で大学院に入学をして、社労士のカリキュラムを学べるようになっています。これは2008年度から明治大学大学院経営学研究科と共同して始めたのですが、現在は北海道、東北、中部、関西、九州の各大学とも提携を図っているところです。
――最後に、これから社労士を目指す方、あるいは勉強中の方へメッセージをお願いします。
金田 現在ない職域を拡大していくことと、現在ある職域を定着させていくという2つの方向性を取ることによって、これからますます社労士が増えていっても、それ以上の部分を業務として獲得し、さらに社労士制度が発展していくような仕組みを考えていますので、安心して、まずは全力で試験合格を目指していただきたいと思います。また、社労士会に入会するとまず支部に所属するわけですが、そこにはまさしく専門性を持った方々がたくさんいて、幅広い人脈を持てることが一番のメリットになると思います。一番良いお手本が目の前にいるわけですから、各支部の活動に参加をして、実社会で通用する知恵を付けていただきたいと思います。
――貴重なメッセージをいただき、ありがとうございました。