経営支援に役立つコラム

アメリカのCEOの給料はなぜ高いのか?
~相対評価という罠

中小企業支援に役立つテーマでコラムを掲載します。今回は、「アメリカのCEOの給料はなぜ高いのか?」がテーマです。

企業経営アドバイザーコラム


アメリカ企業の最高経営責任者(CEO)の報酬は、一般労働者の給与の360倍に上ると言われています。よく「報酬が高騰したのは、プロ経営者の台頭と新自由主義的な市場経済による過剰評価の結果だ」と説明されますが、もっと大きな要因は「相対評価の罠」かもしれません。

報酬公開が逆効果に

アメリカでのCEOと従業員の報酬格差は、1970年代末には約40倍だったものが1980年代末には70倍に拡大しました。これを抑制するため、1992年に証券規制当局は企業に経営幹部の報酬と役得の開示を義務付けました。

透明化されれば経営者は法外な報酬を控え、報酬委員会も過大な報酬を認めないだろうとの期待からです。 しかし、実際には報酬格差は一気に拡大し、1993年には130倍近く、2000年のITバブル期には300倍にまで達しました。

相対評価の心理的メカニズム

なぜこのような逆効果が起きたのか。人間の強い承認欲求と自己価値評価の心理が背景にあります。人は他者と比較して自分の価値を測る傾向があり、多くの場合自己の価値や能力を過剰に評価することもあります。特にプライドの高いCEOにそれが顕著であることは研究でも示されています。

このため、「あのCEOがこれだけもらっているのなら、自分はもっと価値があるはずだ」と考え、相対的に「より高い報酬」を求めるようになりました。CEOたちは必ずしも莫大な金額を欲していたわけではなく、単にライバルより自分の価値を認められたいという承認欲求が強かったのです。

この現象は、1990年代以降のプロ野球選手の年俸高騰にも通じます。年俸が公開されることで選手同士の比較が活発化し、報酬が上昇したと見ることもできます。

日本はアメリカの真似をすべきか

一方、日本の状況は異なります。1億円以上の報酬を得る役員は数百人とアメリカに比べれば少数で、報酬全体も抑えられています。近年、グローバル企業では外国人上級管理職に高額報酬を支払う例が増え、「日本企業も報酬を引き上げなければ優秀な人材の確保が難しく流出リスクも高まる」との声が上がっています。

確かにAIなど高度専門性を要する分野での人材獲得には高報酬が必要でしょう。しかし経営陣に関してはどうでしょうか。まず、経営者の力量と企業業績の因果関係は明確ではありません。企業業績には個人の判断以外に、景気や前任者の施策など多様な要素が影響します。

業績好転が「たまたま」だったケースも少なくなく、リーダー個人の資質に原因を求めるのは単純すぎます。また、経営者報酬が高いほど業績が良いという明確な統計データも存在しません。

おわりに

高報酬に対する疑問は研究者からも盛んになされているにもかかわらず、単に右倣えの姿勢で臨むことが果たして正しいかはよく考えたほうがよいのではないでしょうか。

企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元

※当コラムの内容は執筆者個人の見解でありTAC株式会社としての意見・方針等を示すものではありません。
※当コラムは一般社団法人 日本金融人材育成協会ホームページの「ごえんをつなぐコラム」で掲載された内容を編集して掲載しております。

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