ビジネス書は役にたつのか?
~賢い経営学との接し方
中小企業支援に役立つテーマでコラムを掲載します。今回は、「ビジネス書をどう利用するべきか?」がテーマです。

経営書の目的は、「高い業績の企業を取り上げ、その共通点(法則)を抽出し、世に紹介する」というものです。読者の欲求も、「成功企業の法則を知りたい」に尽きるでしょう。
ビジネス書のジンクス:成功企業と成功法則の真実
「スポーツ・イラストレイテッドのカバー・ジンクス」をご存じでしょうか。このアメリカのスポーツ雑誌の表紙に登場した選手は、その後必ずスランプに陥ると言われます。なぜなら、表紙を飾る選手は直前に絶好調だったものの、スポーツ界で好調は長続きせず、ちょうど好調のピークが過ぎた後にカバーを飾るからです。つまり成功のピークは偶然で、その後は平均的な成績に戻るのです。
このジンクスはビジネスにも当てはまります。かつてベストセラーとなった経営書に登場した「スター企業」も同様です。たとえば1980年代初頭に出版された『エクセレント・カンパニー』(トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン)では、43社が超優良企業として紹介されました。しかし、出版から2年後には14社が経営不振に陥りました。さらにIMDのフィル・ローゼンツワイグ教授が1980年から5年間の株主利益率を調べた結果、35社中市場平均を上回ったのは12社のみで、多くは平均以下でした。
同様に1994年の『ビジョナリー・カンパニー』に取り上げられた企業も、1995年時点で純利益率が市場平均を上回った企業は17社中半数以下でした。近年の『ブルーオーシャン戦略』も同じく疑問視されます。激変する環境下で長期にわたり高い業績を維持する企業は極めて稀で、ビジネス書が示す普遍的成功法則は偶然の産物ではないかという批判です。ある評論では「網の上の無数の小石の中、最後まで残った一つを分析しても意味がない」とたとえられています。
経営者の格言も偶然の可能性
一方で、叩き上げで成功した経営者からは「経営理論は現場を知らない机上の空論」といった否定的な声も聞かれますが、それは必ずしも正しくありません。彼らの成功にも共通法則があるかもしれませんが、それもまた偶然の可能性が高いのです。
学術的な経営理論は膨大な実証データと厳密な審査を経ているにもかかわらず、その真偽すら完璧ではありません。したがって、個人経営者の経験や格言が一層信頼できるわけでもありません。実際、メディアで称賛された経営者が成功法則を書いた書籍で出版後に業績が急落したケースは枚挙に暇がありません。
ビジネス書はどう活用すべきか
企業業績はマクロ経済、競合、政策、消費者嗜好など多様な要因に左右され、普遍的な成長法則を明確に導き出すことは難しい現実です。極端な戦略でたまたま成功する例もあれば、ごく普通のことをしていてもうまくいかないケースもあります。
偶然性の高い環境下でビジネス理論を学ぶ意義は、「必ず成功する」法則を理解することではなく、「生存の確率を少しでも高める」法則を知ることにあります。そのために重要なのは、一つの考え方に固執せず、多くの考え方を学ぶことです。従来の方法が通用しなければ考え方を変え、新たなアプローチを試す柔軟性が必要です。
おわりに
多様な視点や理論を知ってこそ、激動の経営環境を乗り越える力がつきます。ぜひ多くの考え方を吸収し、自身のビジネスに役立ててください。
三枝 元
※当コラムの内容は執筆者個人の見解でありTAC株式会社としての意見・方針等を示すものではありません。
※当コラムは一般社団法人 日本金融人材育成協会ホームページの「ごえんをつなぐコラム」で掲載された内容を編集して掲載しております。
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